ジョン・ハリソン『共感覚』

話しかけるような文体で進んでいくので読みやすい。
心理学の基本的な考え方なども分かる。
心理学の基礎→共感覚について、という構成ではなくて、共感覚について話ながら、必要になれば基礎的な話を適宜行うという構成なので、読んでいる分には非常に楽なのだけど、あとからまとめるのが難しいw
行動主義と認知主義とか(脳・行動・認知(BBC))*1、統計とか、脳機能マッピングとか、遺伝とかの話もある。
そういう心理学の基礎の話を読もうと思って読んだのだけど、共感覚の話自体も非常に面白かった。
休憩として、真ん中らへんに共感覚者として名前が挙げられやすい芸術家が紹介される章があるのだけど、作者が本当の共感覚者だったろうとするのはナボコフだけ。というのも、共感覚は遺伝するらしく、息子もまた共感覚を持っているナボコフはかなり本物である可能性が高い、と。
そこで紹介されているのは男性ばかりなのだけれど、実際には圧倒的に女性が多いらしい。なので、伴性遺伝なんじゃないかと。
しかしそれにしても、共感覚とは一体どういう感覚なのか。
著者は自分には全く分からないと告白する。これは、まさしくクオリア論みたいなものだと思うけれど、僕自身はクオリアという言葉は好きではなく、しかしこの本はクオリアという言葉を一切使わずにそうした議論の位相に触れているので好ましいなと思う。というか、そういうことが可能なのだから、クオリアという言葉は必要ないというのが僕の考え。

共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

共感覚―もっとも奇妙な知覚世界

*1:共感覚研究は、19世紀末から20世紀初頭、まさに心理学が勃興した頃に隆盛し、しかし行動主義と共に日の目を見なくなり、そして20世紀後半になって再び現れてきたらしい