デーヴ・グロスマン『戦争における「人殺し」の心理学』

なかなかなんとも言えない本であるが、良書だと思う。
戦争において兵士が一体何を体験しているのかという話で、主に第二次大戦とベトナム戦争だが、第一次大戦南北戦争の資料も結構出てくる。
人は人をそうそう殺すことはできない、というのがまず確認される。
第二次大戦までの発砲率の低さや、発砲しても頭上に向けて撃っているだとか。
距離が近くなればなるほど殺しにくくて、集団であったり、上司からの命令があると殺しやすくなるとか、言われてみれば確かにその通りだよなあと思うのだが、なるほどそういうものかとも思わせる。
歩兵よりも砲兵やパイロットの方が、容易く殺人ができるなどというのも、説明されればなるほどと思うのだけど、そういうふうに分けて考えたことがなかった。
仲間との絆の深さとか。殺されることよりも、仲間からどう思われるのかという方が怖いとか。
殺人のあとの過程とかも興味深かった。
殺すことができるのかという不安、殺した後の高揚、そして罪悪感、受容と正当化という段階を経るらしい。もちろん、これらの段階を全ての人が体験するわけでもなく、期間なども異なるわけだが、正当化をうまくできないとPTSDを発症する。
ベトナムでの兵士は、ずいぶんと悲惨だったんだなと改めて知った。
ほとんどの人間は、人を殺すことができないのだが、ある調べによれば、2%ほど容易に人を殺すことのできる人間がいる。いわゆるサイコパスだとかソシオパスだとか言われる人間だが、グロスマンはこの2%の全てがソシオパスなわけではなく、さらにおさえのきく者とそうでない者がいて、後者は確かにソシオパスだが、前者はいわゆる「英雄」っていう奴じゃないのかという仮説をたてていて、これもまたなかなか面白い。
最後の章は、暴力的なテレビゲームや映画が子供たちに与える影響を告発している文章になっていて、個人的においそれと暴力表現反対と主張したくはないけれど、二次大戦以後の訓練方法が確かにあまりにもシューティングゲームになっていて*1、確かにその危惧も分からなくもない*2
戦争に関わる作品とか記録とか見る目が少し変わるかも。

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

*1:あるいは映画も訓練に使われているらしい。っていうか、それなんて『時計仕掛けのオレンジ』って方法があるらしい。兵士の訓練方法の話を読んでいると、自然と『フルメタルジャケット』が想起されるし

*2:ちなみにグロスマンはゲーム全般を否定しているわけではない