泉信行『漫画をめくる冒険』下巻

これまた、非常に面白く、また色々と示唆に富む本。
とりわけ、下巻の序で言われている「詠む」という概念の提起は素晴らしいと思った。これは自分のフィクション論にも適用していくことができそうだ。
非常に細かい、技術的な話を論じているようにも思える。実際、そういう面もあるだろう。「漫画の文法」と言っているが、そのとおりで、彼の喩えによるならば、主語と目的語の順番の違いによるニュアンスの違いということを論じているのだから。しかし、そういうニュアンスの違いというのは、ネイティブにとっては無意識に受け取られているものであり、それを意識化されると思わぬ驚きがあるものであり、これはまさにそういう驚きがある。確かに言われてみればそうだ、という感じ。しかし、漫画をこうやって読んでいくとはすごいことだなあと思う。
一方で、夏目房之介との対談や終章に見られるように、漫画読書における読者コミュニティや読者の中の様々な人格(大人や子ども)、あるいは連載にかかる時間といった、いわば社会的な問題をも組み込んでいく視点があるところもまたすごい。