ウエルベック『素粒子』

面白かったともつまらなかったとも言えるけれど、6:4でつまらなかったかもしれない。
ところどころ面白いところがあるのだけれど、全体を通して「キター」となることはなかった。
ブリュノとミシェルという異父兄弟の話。天才生化学者であるミシェルは、孤独な人生を歩みながら、とある研究を成し遂げて、それが最終的に人類を別の種へと変化させる(変化後の人類によって書かれているのが本書、という設定でそこらへんはちょっと『ハーモニー』っぽい)。しかし、そこらへんのSF的な部分はとても少なくて、物足りない。
むしろ、話自体はブリュノという中年男性の悲哀に満ちた(?)性生活を中心に展開していく。非モテといえば非モテだが、日本のいわゆる非モテよりはよっぽどモテてはいる。風俗とか乱交パーティに行きまくるのだけど、いつまでも性的に満たされることがなく孤独を感じていくブリュノ。
彼らの両親が、ヒッピー・ニューエイジの第一世代であり、彼らがそうした価値観の最後の世代といえる。もはやそのような価値観を心から信じることはできないのだが、しかしそのような価値観の中でしか生きることができない辛さというのを、ブリュノは体現している。ミシェルは、生活の上ではそうした価値観とは全くかけ離れたところで生きているけれど、いわばそういう価値観が限界に来ていることは感じていて、それが彼の研究を進めさせている。
そういうわけで、これは戦後フランス(とアメリカ)のヒッピー・ニューエイジ的なものの文化史を、ブリュノの視点から描いたものだともいえる。ブリュノパートは正直あんまり面白くないんだけど(ほとんどずっとセックスのこと)、戦後フランスのサブカルチャーにおけるニューエイジ的なものがどういうものかというものの概観という意味では面白かったかもしれない。オルダス・ハックスリーが、ニューエイジ思想に強い影響を与えたというかそのものだったというのは、知らなかったので。