藤村龍至/TEAM ROUND ABOUT編著『1995年以後――次世代建築家の語る現代の都市と建築』

フリーペーパー『ROUND ABOUT JOUNAL』を通じて、多くの建築家らにインタビューを行ってきた、藤村龍至とTEAM ROUND ABOUTによるインタビュー集。
1971年生まれの藤本壮介から、82年・83年生まれの大西麻貴+百田有希まで32組の建築家ならびに研究者へのインタビューが並んでいる。ほぼ全員が建築家だが、倉方俊輔、南後由和やドミニク・チェンといった研究者も混ざっている。
インタビューを読むのは楽しい。それが32組という膨大な量だとしても、案外さくさくと読めてしまうものである。とはいえ、もともと僕は建築にたいしてそれほど強い興味・関心があったわけでもなく、インタビューされている人たちもほぼ全員知らない人だ*1
そんなインタビュー集を何故読んだのか。
実は僕はこの本のレビューを書くことを依頼されているのだ。いや、正確に言うのであれば、「レビュー書いてくれる人誰かいませんかー」という藤村さんからの呼びかけに「はいはい、やりますー」と手を挙げたというのが正しいが。というわけで、実はこの記事は、この本の販促戦略の一環としてあるのであるw *2
ブログに商品のレビューを書かせるという販促は、今に始まったことではなく、一部ではそれほど珍しいことではないだろう。
しかし、このレビュー企画は単なる販促ではない*3。この、32組の建築家のインタビューという、僕としてはかなり不慣れなジャンルの本をどうやってまとめようかと悩んでいたところに、藤村さんから送られてきたメールは、「独自の論点を展開していくような批評をよろしく」というものだった。ハードル上げるなよ、と思った。
「わーい、ブログ書くだけで本もらえるのかー」と思ってホイホイ手を挙げた時点で、藤村さんの罠にはまっていたわけであるw 彼は、ブロゴスフィアに言説空間を作り上げようとしているのである。この本は20日発売だが、発売直後にこのようにしていくつものレビュー記事があがり、『1995年以後』を巡る言説空間が出来上がっているという次第なのだ。つまり、藤村龍至とTEAM ROUND ABOUTの編集する『1995年以後』というのは、単にこの本だけではなく、そこから連結して拡大していくブロゴスフィアの言説空間をも含んでいるのである。まさしくその意味で、『1995年以後』はコミュニケーション・メディアとしてデザインされたといえるだろう。
彼が先日行った、LIVE ROUNT ABOUT JOURNAL 2009 - logical cypher scapeもまた、そのようなイベントだった。20人がずらりと一堂に会することで、ほとんど無理矢理に、普通だったら絶対行われないであろう議論の空間が作られていったのだ。
少し話が逸れるが、このように議論を喚起させるようなことこそが、批評的と呼ばれることなのではないかと、最近僕は思っている。ゼロアカ道場というものに半端に足を突っ込んでしまったために、「批評とは何か」というよく分からない問いを考えざるをえなくなってしまったのだが、その一つの答えだと思っている。そのためには別に、必ずしも批評と呼ばれる文章を書く必要はなくて、むしろイベントを企画したりすることの方が批評だったりしうるのではないだろうか。
そういう意味でいえば、僕が今から書くのは、あくまでもこの『1995年以後』という本に対する「感想」に過ぎない。僕にこの「感想」を書かせた、藤村さんの仕掛けの方が「批評」と呼ぶに値する。

内容について

繰り返すけれども、この本は32組のインタビューが収録されている。その上、そのほとんどは僕にとってこの本で初めて知るような人ばかりである。なので、その一つ一つを紹介していくことは不可能である。
それぞれのインタビュー毎に、インタビューそのものの雰囲気にも差異があるし、インタビューイのやっていること、経歴にも違いがある。しかし、そういったことは捨象してしまうことにして、むしろインタビュアーである藤村龍至とTEAM ROUND ABOUTが一体何を聞いていたのか、ということまとめてみたい。

環境との関わり

そもそも建築家って一体何やってるんだ。家の設計図を書いているのか。それはもちろん、その通りだが、単に家の形を決めているだけではない。というか、それだけではダメだろという話。
そこでまず問われているのが、環境との関わりである。
ただ、一言で環境といっても色々ある。
例えば、それは周辺の風景のことだったり、その敷地の形や予算だったり。あるいは、もっとミクロにインテリアと建物の関係であったり、逆にマクロに都市と建物の関係であったりするかもしれない。
建築物というのは、建築物単体で完結しているものではないから、建築物が建築物以外とどのように関係しあうのかということを考えなければならない。逆に考えれば、建築家の仕事は単に建物の形を考えるだけではなくて、その周辺のものを考えることにも拡大しうる。こういう形にすると、この場所がこんなふうに使えますよ、とか。
そのように考えると、建築家のできることは色々と広がる。
藤村が繰り返し問題にする、郊外についてもここから考えることができる。実際、藤村は多くの人に、郊外についてどう思うかを尋ねている。
それは一つには、郊外的な環境をいかに自分の建築に反映するかという問題であり、
もう一方では、いかに自分の建築によって郊外的な環境を変化させていくかという問題である。
そして、この2つは別々なのではなく、実は同じことである。

商業主義との関わり

さて、環境との関わり、ことに郊外との関わりについて考えるのであれば、避けては通れないのが商業主義である。
どうも、従来の建築家というのはコマーシャリズムの建築をあんまり作ってこなかったらしい*4
商業主義というのは、一方では効率を重視して、同じような形のものを量産するものというようなイメージの言葉として使われるが、一方でどうやって付加価値をつけて売るかという考え方でもある。
商業建築というのは、商業つまり何らかのサービスに使われる空間である。だとすれば、建築もまたそのようなサービスを提供するような空間を作った方がよいのではないか。
商業主義というのを、単に効率偏重と批判するのではなく、むしろそこにおける論理を見ていくことによって、新しい建築を作るヒントが得られるのではないか。そうすれば、同じ形の量産ではないタイプの商業建築もまた可能になる。

方法論・建築的な解

何よりも藤村がそれぞれの人に聞いていたのは、このことだったのではないだろうか。
「あなたは何を作りましたか」「それはどんなものですか」という問いよりもむしろ、「あなたはどのようにしてそれを作りましたか」「あなたはどのようにしてそのような考えに至りましたか」という問いをより重視していたように思える。そうした問いの方が断然面白い。
もちろん、答えは千差万別である。
どのような場所で育ったのか。師匠からの影響か。海外での体験か。あるいは、抽象的な理論を構築したたまものか。具体的な実務を通して得られた感覚か。
これは、建築家という職業の面白いところだと思う。
彼らは単なる理論家であったり科学者であったりするわけではないし、芸術家であったりするわけではないし、職人であったりするわけではない。それらの要素をそれぞれ併せ持っている。人によって、理論を重視する人もいれば、芸術的な感性を重視する人もいれば、職人的な実作業を重視する人もいる。しかし、おそらくそのどれもが必要なのである。
ひとくちに建築家といっても、経歴としては色々な人がいて、京都で左官をやっていた人がいるかと思えば、非ユークリッド幾何学CADというソフトを作った人もいる。また、隣接分野(?)として、構造や設備の人もいる。
上記の2つ、つまり環境とどう関わるか、商業主義とどう関わるかという問題も、具体的にどのような建築を作るかというスコープの中で見出される。
ある問題に対して、どのような解を与えるか。
そしてそこで藤村が拘るのが、建築的であることである。
どういうふうに暮らすか、どういうふうに働くか、どういうふうにサービスを展開するか、どういう地域にしたいか。そうした問いに対して、建築でもって解を与える。それが建築家である。そして、そのような解はまだありうる。建築家のやることはまだある。このインタビュー集はそのことを探しだそうとしている。
建築家が単に家の形を考えるだけならば、建築的な解というものはもうほとんどない。しかし、先述したように、建築家の仕事として、環境との関わりを考えていくことを挙げるのであれば、まだ十分にあるのではないだろうか。藤村は、32組の建築家・研究者からその答えを引き出そうとしている。

デザインについて

本としてもちょっとばかり面白い作りになっている。
初の書籍、2月20日発売 - BUILDING M 日記を見るとわかるが、表紙を広げるとそこにもインタビューが載っているのだ。

最初見たときは、本文の一部を抜粋して掲載しているのかと思ったら、表紙カバーに33本目のインタビューが掲載されているのである。
32組のインタビューイが1971年から1983年生まれであったのに対して、こちらは、1935年生まれ、『都市住宅』などの建築雑誌の編集長を務めた植田実である。どのように雑誌メディアをデザインしたか、ということが述べられている。


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1995年以後~次世代建築家の語る建築

1995年以後~次世代建築家の語る建築

*1:というか若手建築家ばかりなので、建築に興味・関心がある人であっても、彼らの名前を知っている人というのはかなり業界に近い人なのかもしれない。正直、彼らの知名度が建築の世界でどれくらないのか全然分からない

*2:一応付け加えておけば、この本を送っていただいたこと以外、謝礼は発生していない。なので、お金目的で書いているわけではないですw

*3:そもそも版元や流通の企画ではなくて、著者である藤村さんの企画だし

*4:建築家というのは、多分設計事務所を持っているような人のことを指しているのだと思う。名前のついている存在というか。建物を造るときには、建築士の資格持っている人が作らなきゃいけないわけだから、商業建築を作るときにも、建築士は関わっているだろうけど、そういう人と建築家は別ものということなのかな