グレッグ・イーガン『TAP』

初期の作品を集めた短編集。
イーガンの好きな人にとっては、まあいつもながらのイーガン。
しかし、何というか長編での、次々へとネタを繰り出してくる感を知ってしまっていると、今回の短編集収録作品は、何というかどれもあと一歩物足りない感じもしてしまう。
それから普段のイーガンとはかなり異なる作風の作品もいくつか収められている。
「悪魔の移住」「散骨」「自警団」がそれで、後ろの2つはイーガンのホラー作品である。ホラーに関してはあまりピンと来なかったなあというところ。「悪魔の移住」は、その饒舌な文体がわりと面白かった。
「視覚」は、幽体離脱体験を描いていて、ちょうどこの視覚が入れ替わる実験のニュースを見た頃に読んでいたので、なんかタイムリーな感じがしたw
後半3作品「要塞」「森の奧」「TAP」がいかにもイーガンだなあという感じで、面白かった。
この短編集に入ってる作品は全般的に、科学用語やら何やらのハードさはあまりないのだけど、この3編はわりとそういう科学用語使ったりして進んでいく感じ。
まあ、長編だったら、「この後」こそが描かれていくんだよなあとか思ったりしつつも。
「要塞」は移民問題、「森の奧」には塵理論っぽい話が出てくるアイデンティティネタ。
「TAP」は私立探偵が主人公になっていて、探偵物にもなっているのが他の作品とちょっと違うところ*1
TAPというチップを入れることで手にいられる、TAP言語の話。
この言語に、スキャンとプレイという2つの機能があるのが面白い。ある言葉をスキャンすると、その言葉の辞書的な、客観的な意味を理解することができ、プレイするとまさにその言葉を意味するところを体験することができる(例えば「楽しい」をプレイすると、楽しい気分になる)。
TAP言語の特徴的な機能とされているが、言葉そのものの機能を言い当てているようにも思う。


河出の奇想コレクション
初めて買った。ソフトカバーなんだけど地味に凝った作りになっている。

TAP (奇想コレクション)

TAP (奇想コレクション)

*1:推理物ではない