木村資生『生物進化を考える』

中立説を提唱した、木村資生による、進化論の入門書。88年に書かれた本なので、データ的には古いのかもしれない(例えば、このことは今後の研究を待ちたいという記述が何カ所かある。これは今ではもう立証されていたりするのだろうか)。
進化論とか遺伝とか、個別にはある程度分かっていたところだけれど、それの関わり、あるいは分子生物学と進化論との関わりとかは、全然知らなかったので、読んで良かった。
しかし、文系の自分には難しいところも多かった。こういうときだけ、文系とか言い出すな、という話なのだが、確率や統計*1に関わる話が多いので、数式などが出てくるのである。高校の数学や生物で見覚えのある言葉とかが出てくるので、多分そこまで難しいことは書いていないのだと思うが。要するに、見慣れない表現なので難しく感じるということ。
ただ、生物学といっても、かなり数理的なモデルを使っているんだなあということが分かった。当たり前と言えば当たり前の話かもしれないが。
自然淘汰、というのが進化論の肝となるアイデアだが、自然淘汰と進化というのは必ずしも同じではない。中立説というのは、遺伝子のレベルにおいて、自然淘汰にさらされない部分(つまり中立的な部位)の変化が蓄積されているという考えである。自然淘汰が進化にとって重要なのは依然変わりはないが、分子レベルではそうではないわけだ。
アミノ酸やDNAの配列を調べることが可能になった(分子生物学)ことによって、進化について考えるにも、異なる視点が付け加わった、と。化石が見つかっていないところに関しても、系統樹を考えることができるようになったとか。古生物学との対立も多少あったらしいが。


1章と2章が、学説史となっている。
ダーウィンとメンデルはあまりに有名だが、1930年代に遺伝学の発展に伴って、進化論と遺伝学が矛盾なく相容れることが判明し、いわゆる「進化の総合説」というものが完成する。
そして、60年代から分子生物学が発展し、70年代に中立説が確立する。
3章は、生物の歴史。
4章が突然変異について。
5章は自然淘汰について。一言で自然淘汰と言っても、色々な種類の淘汰があることがわかる。
6章は集団遺伝学について。メンデル遺伝学を発展させていったもの。劣性致死遺伝子とかの話がされていたが、この章は自分にとっては一番難しくて、よく分からなかった。
7章と8章が分子進化と中立説について。
分子生物学によって、進化の系統樹を調べることとか面白い。何世代で突然変異が蓄積されるかとか、数理的なモデルになっていたりするのも、何か面白かった。
あとは、分子進化と表現型進化との橋渡しの話。つまり、分子進化は中立説で、表現型進化は自然淘汰で説明されるとしたら、この間はどのように橋渡しされるのか。これからうまい説明が待たれる、となっていて、この時代のホットトピックだったのかな。今現在、この問題はどうなったんだろうか。ドーキンスとかだろうか*2ドーキンスの遺伝子淘汰か。
それから、種分化がどうなされるかも問題だけど、この本では触れられないということも書いてあったな。
9章は、作者の考える未来の人類。この章は怪しいw ちょっとあまりにもSFじみているというか何というか。
この本、全体的にはまっとうだと思うけど、ごくまれに怪しいことを言っている*3

生物進化を考える (岩波新書)

生物進化を考える (岩波新書)

*1:遺伝学の研究の中で、カイ二乗検定とか出来たらしい

*2:この本にドーキンスの名前は出てこない。グールドは少し出てくるが、断続平衡説はそれほど重要ではないと言われている

*3:大量絶滅の話の時に、伴星ネメシスの話をちらっとだけ紹介していたりした