『ダークナイト』

結局、見に行きそびれてしまったなーと思っていたのだが、調べてみたらまだやっていたので、ギリギリ滑り込む感じで見てきた。
ほんとこれは、劇場で見てよかった。
もちろん、ジョーカーが素晴らしいのだが、アクションシーンやら演出やら最後のシーンやら諸々がかっこいい。
まず、冒頭のジョーカーによる銀行強盗シーンにおけるジョーカーの鮮やかな手口や、序盤の方でいきなり香港へ行ってしまうバットマンのアクションシーンとかがいいなあと思う。
いやー、カメラがぐるんぐるん動き回る。
このカメラをぐるぐる回しちゃうのは、マトリックスあたりから普通になって、今では邦画でも見られたりするけど、やっぱり何かすごいなーというか好きな演出。
ゴードン、ハービー・デント、バットマンが初めて一堂に会する屋上で、カメラがぐるりと回る。僕は実はバットマンシリーズって全く見ていないので、このシーンを見たときにはまだこの3人の役回りがよく分かっていなかったのだけど、後から思い返してみると、この3人が一堂に会するシーンというのはかなり重要なところだよなあと思う*1
それから、まあみんなかっこいいわけだが、何かとバットマンを補佐する2人のおじいちゃんがかっこいい。それぞれバットマンである青年ウェインの執事と、ウェインが会長をやっている会社の社長なんだけど。かっこいいお爺ちゃんは好きなんですが、それが2人も出てくるとは。まあ、お爺ちゃんと言ってしまうと、ちょっとイメージが違っちゃうけど。現役の社長役であるモーガン・フリーマンなんかは特に。
そして、ジョーカーが留置所から逃げ出すシーン。
パトカーの窓から顔を出して走り去っていく。音楽は消えて無音になる。
このシーンに震えた。
そして、病院を爆破し、札束を燃やす。人々は我先にとゴッサム・シティから脱出しようとする。
世界がどんどんぶっ壊れていく。ジョーカーの面目躍如。
このジョーカーの狂った悪役っぷり、秩序の破壊っぷりは、もうそれだけでよいものだなあと思うのだけれど、しかしこの映画のすごいところは、その後まで踏み込んでいったことだと思う。
つまり、ジョーカー型の悪というもの、秩序の外側にいるものというものを示すだけでは、もはや物語というのは終わることができないからだ。
全市民を盗聴するシステムを作り上げたバットマン
二隻のフェリーの爆破スイッチの前で試されるゴッサム・シティの市民。
トゥー・フェイスと化したハービー・デントを「光の騎士」たらしめんとするバットマンとゴードン。
これらはもちろん、ポスト911アメリカを直ちに想起させるだろう。
そしてそれは、アメリカのあるべき姿なのかもしれないし、アメリカへの批判であるのかもしれない。そういう二重性を持っているように思えた。
同じ問題を突きつけられているのは必ずしもアメリカだけではないが、ともかく、かような覚悟を負うことは出来るのか、という問いかけだろう。
決して爽快なエンディングではなく、重苦しさがぐっと残る。
「ヒーローとして死ぬか、生き延びて悪に染まるか」
バットマンは、死なず、悪に染まらず、逃げ続ける。
果たして彼はヒーローではない。では彼は何なのか。


ジョーカーは最後に吊されるわけだが、カメラが上下反転で撮られているのが、たまらなくよい。
あたかも操り人形かのようになっているジョーカー。

細かい話になるけど、ジョーカーが病院バスをジャックして、そこに居合わせたニュースキャスターに脅迫の原稿を読ませるシーンがある。注意して見ると原稿をめくり上げるたびに、用紙が上に飛んで行っていることがわかるだろう。つまりキャスターは逆さづりにされているのだ。
このような画面の反転、あるいは立場の反転の構図は、いたるところにでてくるので注意して見てほしい。

http://d.hatena.ne.jp/leibniz/20080812/1218584386

ああ、これには気付かなかったなあ。
あと演出というと、やはり光と影というのがある。

映画の中で用いられる数々のメタファーが、最終的にはすべて「光と影」という共通のテーマにおいて回収されていくのがすばらしい。

http://d.hatena.ne.jp/zoot32/20080811#p1

これはまあベタだけど、デントがトゥー・フェイスになった後の撮り方に顕著。
こういう演出とか気にしながら、もう一回見れる作品だなあと思う。


クレジットを見るまで、ゴードンがゲイリー・オールドマンだと気付かなかった。
ゲイリーファンとしてはショックだ*2
まあファンと言っても、『レオン』と『フィフス・エレメント』しか見てないのだけど。
この2つでは、ジョーカーとはタイプが違うのだけど、狂った感じの悪役を演じている。
歩き方や動き方にクセがあるところは、ジョーカーっぽいかもしれない。
『レオン』を見終わると、必ず真似したくなる。
ゴードンは、そういった役とは真逆といっていい役である。
まあ僕は基本的に、ジョーカーとか『レオン』のゲイリーとか、ああいう感じの役が大好きなんだけれども、しかしゴードンもかっこいいんだよなあw


ゴッサム・シティが結構リアルに書かれているので、バッドマンのアイテムとかがちょっと浮いているという意見も、ブログをいくつか回ったら見かけたけれど、この手のメカも好きですw
香港のシークエンスが面白いのは、色々とアイテムを使ったり、最後にはジェット機使って脱出するという大技使っているから。ヘリじゃなくてジェット機っていうのがいい。
秘密基地もかっこいいなあと思うけど、なんというかモダン(?)すぎる感じがする。
バットモービルバットポッドのあのタイヤのでかさは、結構好き。


後半から、震えたり興奮したり笑いを浮かべたりぐぅっときたりしながら見ていて、スタッフロールは思いっきり余韻に浸っていた。

*1:カメラがぐるりと回るという演出も、それなりに手間のかかる作業なわけだから、シーンの重要度によって割り当てられてるはずで

*2:気付かなかったことが