『新潮』『群像』『文學界』『すばる』8月号

楊逸芥川賞をとったとか。
あ、あと、『論座』休刊とかが、今日の文壇・論壇関係ニュースか。

『新潮8月号』

  • 間宮緑「実験動物」

ワセブンのを読もうと思っていて結局読んでないや。
面白いような、つまらないような。
「私」と「吸血博士」の共同生活っぽい共同研究の話。「吸血博士」というのは、「私」が作り出した人工生命体で、人間っぽいけれど頭が蚤。人間並みの知能はあるけれど、考え方が蚤で、「私」と会話すると色々とズレが出てくる。
リーダビリティが高くてスラスラ読めるし、マッドサイエンティストとそれによって作られた知能を持った生きものという設定はありがちだけれど、わりと淡々と両者が会話してたりするのはそれなりに面白い。
でも、結局何だったんだって感はある。

何というか、『キャラクターズ』以来、東の小説はつまらないという偏見のようなものがあるんだけどw
これもまた、面白いといえば面白いんだよなあ。
とはいえ、何か圧倒的に昂奮するような面白さというわけでもない。
近未来SFで、かなり現実世界との地続き感があって、主人公が作者とよく似ていて、設定とか見てると面白いトピックを色々組み込んでいて、とか考えると、瀬名秀明っぽいのかなあとか思ったりもした。
未来社会のイメージとか、そういう設定にしたのかー、ふむふむ面白いねーとかは思う。
ストーリーにしても、風子とその弟は、一体何をしでかして、これから何するんだろう、とか。


対談が二つ。
多和田葉子川上未映子*1高橋源一郎平野啓一郎。読もうかなあと思ったけど、ちょっと時間がなかったのと、それほど面白そうでもなかったのでスルー。
多和田・川上対談のはサブタイトルにポリリズムと書いてあったので、おっと思ったのだけど、ちらっと見た感じでは、ポリフォニーの話とリズムの話をしてただけっぽい。

  • 書評

岸本佐知子編訳『変愛小説集』/鹿島田真希
恋愛ではなくて変愛。この本、ちょっと面白そうだなあと思った。収録されている短編のあらすじが、全て載っていたけど。

『群像8月号』

まあどんなこと喋っているかはみなさんの想像通り。
森が、革命とかするわけじゃないの? と聞いて、雨宮が別にそういうわけじゃないですよ、と言い続ける。
雨宮が、実に生き生きと喋っているわけだけど、最後に、こんな運動は早く終わらせてしまいたいと言っていて、まあよかったなと思う。

アンチノミー編へ。
矛盾対当と対立対当の違いについての説明。
今回からは難しい、難しいと中島はやけに言い続ける*2矛盾律の説明が終わったところで、もう分からない人結構いるでしょ、とか言う。
文学とか好きな人は、学生時代、数学とか苦手だったのでこういう話を全然聞きたがらないけれど、我慢しなきゃカント分からないよ、でもみんな脱落しちゃうよね、みたいなことも言っていた。
うーんw

  • 書評

山崎ナオコーラ『長い終わりが始まる』/円城塔
円城はこの作品を論じるに当たって、一行あたりの文字数とその行数を調べて、グラフ化した(らしい)。

  • 創作合評

奥泉光鴻巣友季子佐々木敦
絲山秋子「ラジ&ピース」
奥泉は、一行あけを使って断片を積み重ねていて、これは構成力がないとできないと言い、鴻巣が、時制に注目して読むと、過去でも大過去でも現在でも過去形を使い、無時間的なところで現在形を使っていると言い、佐々木が、三人称的、つまり主人公を客観視して描けていると言う。
舞城王太郎「イキルキス」
奥泉は結構面白がっている様子だったけど、佐々木は「中二病」と一言でまとめる。舞城は、こういう作品ならいくらでも書けてしまうのでしょう、とも。

文學界8月号』

第一回 全体性について(一)
評論ないし批評というのはよく分からんよね、という話で、文学研究でもないし、哲学でもないし、エッセイでもないし、創作でもない、謎のジャンルだと。文芸批評だというのに、作品を論じてないものだってある、と。
で、東は、だから評論というのは不毛なんだけど、しかし不毛だからこそ不毛じゃないふりをしないといけない、という。で、まあ全体性のようなものを装うしかないんだ、ともいう。


まあそれはそれとして、評論って何だろうなあと確かに思う。
小説でも研究論文でもない、なんというか得体のしれない文章のジャンルである。

『すばる8月号』

第三回は、原爆の話。
原爆の話がメインで9割くらいなんだけど、他に、日本の学者は客観主義の誤りにはまってしまっていてよくない、という話とか、
うちの父親は、日本国憲法を見て、カント分からない奴には分からないだろ、つまり一般大衆には分からないだろ、と言っていたけど、うちの父親はカントを読んでないからそんなことを言うのであって、カントを読んだ自分から言わせればそんなことはない、
とかそういう話もしていた。


新潮 2008年 08月号 [雑誌]

新潮 2008年 08月号 [雑誌]

群像 2008年 08月号 [雑誌]

群像 2008年 08月号 [雑誌]

文学界 2008年 08月号 [雑誌]

文学界 2008年 08月号 [雑誌]

すばる 2008年 08月号 [雑誌]

すばる 2008年 08月号 [雑誌]

*1:@ベルリン

*2:難しい理由として、カントの書き方が紛らわしい上に、翻訳も間違っているからだ、とも述べている