『文藝2008夏号』

1998年から2007年にかけてデビューした133人の作家ファイル、ということで、思わず購入してしまった。
こういうガイド本を持っていればなんとかなるんじゃないか、と思ってしまうたちなわけです(^^;
しかし、133人というのはなかなかすごい。
ちなみに1998年には、古川日出男福永信鹿島田真希平野啓一郎宮崎誉子らが
2007年には、円城塔川上未映子磯崎憲一郎諏訪哲史らがデビューしている。
またこの10年間にデビューした作家としては他に、
桜庭一樹(99年)、伊坂幸太郎嶽本野ばら(ここまで00年)、佐藤友哉島本理生舞城王太郎、綿谷りさ(ここまで01年)、中村航本谷有希子(ここまで02年)、有川浩、糸糸山秋子、金原ひとみ森見登美彦(ここまで03年)、海猫沢めろん辻村深月三崎亜記、モブノリオ、山崎ナオコーラ(ここまで04年)、前田司郎、万城目学(ここまで05年)などがいる。
作家ファイルは、顔写真、プロフィール、作者本人への質問が4つ、ライターによる簡単な紹介で構成されている。
質問に答えていない人がいるのはまあ当然として、あと顔写真が載っていない人がいるのも分かるけど、何で載ってないのか分からない人もいる。つまり、質問にも答えているし、他の雑誌やメディアで顔出ししている人。
作者への質問には、「和洋問わず、好きな小説ベスト3」というのがあって、これが何というかそれぞれの特徴が出ていると思う。
佐藤友哉は当然サリンジャーを三つ挙げている。それにしても、五十音順に並べたときに、佐藤友哉島本理生が隣り合っているというのは、一体どういうことなのか。
まあ大概の人は真面目に答えていて、そんな中で以下の答えが目立つ。
海猫沢めろん→「スレイヤーズ」、「フランダースの犬」、「人間革命」
諏訪哲史→恋空、世界の中心で云々、太陽の季節
平野啓一郎→更新中
何というか、さもありなんという感じではあるが。
この回答をちゃんと集計してみたら、何となく面白そうな気がしなくもないけど、面倒くさいのでやらない
パッと見た感じでは、ガルシア=マルケスヴォネガットサリンジャー村上春樹夏目漱石谷崎潤一郎三島由紀夫中原昌也あたりが結構目に付く。

対談斎藤美奈子高橋源一郎

この二人が、思いつくままに90年代からゼロ年代にかけての文学シーンを語っていく、という感じ。
これは、高橋がしばらく前から言っていることだと思うが、一種の戦後文学だという主張がなされていく*1
要するにバブル崩壊を受けて、現れてきた文学で、阿部和重中原昌也がその準備をしたということになっている。
それからもう一つ、ソフトが変わってしまったということをしきりに主張している。
それまでの、いわゆる近代文学においては、「私」というものが必ず小説には書かれていた。が、そういうものがなくなってしまっている。これを近代ソフトないし近代OSの走っている人が読むと、「人間が描かれていない」となるわけだが、そもそもソフトないしOSが変わってしまったんだよ、と主張する。

対談川上未映子中原昌也

この組み合わせは買いだよね。
写真もたくさんあって良い。
全体の雰囲気としては、川上が中原をお説教していて、中原がそれに対して照れ隠しのような返しをするという感じ。
川上萌えないし中原萌えを感じさせてくれる対談。
良かったなあとちょっと思うのは、川上が、中原のタイトルを誉めるあたり。
川上が素晴らしいと絶賛する「物語終了ののち、全員病死」は、ほんとにすごくよいタイトルだと思う。初めて見たときの衝撃というか、なんてかっこいいんだ感はすごかった。
それを受けて中原も、段々と自分のタイトルは気に入っているということを漏らしはじめて、表紙の絵を描くのは好きだ、というようなことも言う。

宮崎誉子「かわいい依存症」

宮崎作品を読むのは初。
コミュニケーションの苦手な女子高生青井蒼が、倉庫でのアルバイトを始めて、他のアルバイトや派遣社員と何とかコミュニケーションを取ろうとする奮闘記。
出てくる人間の大部分が、みななんとも言えない感じ。
派遣の事務は大変だよっていう話をする先輩社員とか、はあ、社会ってこんな感じかあというような気持ちになったりならなかったりする。
明るい話とも暗い話ともいえない。

磯崎憲一郎「眼と太陽」

ブッダの親子三代を扱った前作と異なり、今作は現代のアメリカでアメリカ人女性と交際する日本人男性の話となっており、扱っている題材から受ける「なんじゃこりゃ」感*2は薄まったが、それでも前作と雰囲気は似ている。
雑多なエピソードが淡々と並べられている感じだ。
前作と比べて今作は、主人公も視点人物もずっと同一人物で、彼がトーリという子持ちの独身女性と出会い、一緒に暮らし始め、結婚を決意し、そして親子三人で日本に帰国するまで、というかなりはっきりとしたストーリーを述べることができる。
それにタイトルにもある「眼」が、何度か言及されて、意味をもたされている。
それだというのになお、これはこういう話です、とうまくいうことができない感じがある。
しかし、面白い。
個々のエピソードをディティールまで書き込んで並べていて、ぐいぐいと読んでいくことができる、気がする。

その他

豊崎由美が、中二病をテーマにいくつかの小説を紹介している。
角田光代が書評している、湯本香樹実の『くまとやまねこ』という絵本がちょっと面白そう。
赤木智弘が、森達也『死刑』を書評している。

文藝 2008年 05月号 [雑誌]

文藝 2008年 05月号 [雑誌]

*1:最近、仲俣暁生がブログで批判的に言及していた

*2:いい意味での