『太陽』

ロシア人が監督で、イッセー尾形昭和天皇を演じた作品。
敗戦直前から人間宣言までが描かれている。
当然かなり調べた上で作られた作品なのではないかと思うけれど、玉音放送のシーンがなかったり、マッカーサーがあんまり似てなかったり、戦争で焼けた街が半分CGだったり*1、日本人が歴史物として見たら「リアル」に感じないかもしれない。
だが、皇居の地下の防空壕とか*2マッカーサーとの会話*3とか、侍従との会話*4とか、興味深いシーンはたくさんある。
何やらぼそぼそと要領の得ないことを喋る感じの人、という印象だった。
また、マッカーサーが「子どもみたいな男だ」というシーンがあるのだが、捉えどころのない人間でもある。「あっそ」という相づちが、傲慢な感じにも冷たい感じにも響かない。


神から人間になるまでの過程が描かれている。
神、というか神として生きなければならなかった男が、人間として生きることを決意する。
そもそも彼自身、自分が神ではなくて人間であるということは、当たり前と言えば当たり前だけれど、重々承知しているわけである。しかし、そういうことは許されなかった。
海洋生物学を研究し、時間があれば家族の写真や海外のスター俳優の写真を眺めたりする。米兵が写真を撮りに来たらポーズをとってみせる。マッカーサーと葉巻を吸う。
とある学者を呼んできて、明治天皇が見たという極光の話をする。だが、学者は東京で極光が見られることはありえないと断言する。
疎開先から戻ってきた皇后に、人間として生きるという胸の内を明かす。
皇后との会話によって、今まで強いられてきた緊張*5が解ける。
しかし、「私の人間宣言を録音した若者はどうした?」と侍従に問うと「自決しました」との答えが返ってくるのだ。


天皇イッセー尾形が、侍従を佐野史郎が演じている。
最後のシーンしか登場しないが、抜群の存在感を発揮しているのが、皇后役の桃井かおりである。
まずすごいと思うのが、この3人をキャスティングしたことである。
何しろ監督はロシア人なわけで、確かにイッセー尾形は海外公演などもしているけれど、この濃い3人をうまくチョイスできたなあと思う。
そもそも、イッセー尾形のあのニュアンスというのは、海外の人にはどれくらい通じるのかなあとも思う。
それから、この役を受けたイッセー尾形というのもやはりすごい。
天皇を、しかも近代以降の天皇を演じた役者というのは、果たしてどれくらいいるのだろうか。
全般的にはシリアスなのだけど、コミカルなところもわりとある。かといって、デフォルメしすぎにならないようにもなっている。

太陽 [DVD]

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*1:魚の形をした爆撃機が飛んでいる空襲シーンは、幻想的でなかなかよい

*2:天皇だけ閉じこめられているようにさえ見える

*3:英語で直接会話していた。日本語の時の主語は「私」だが、英語の時の主語は「エンペラー」だったみたい

*4:天皇が部屋で一人にいるときでも、扉のすき間から侍従は様子をのぞき見ている

*5:広くは神として生きることに対するものであり、またマッカーサーとの会話に対するものでもある