『アヒルと鴨のコインロッカー』

ボブディランの「風に吹かれて」がよい。
何度も何度も繰り返されるのが。
冒頭の本屋襲撃シーンは、その後、2度繰り返されるが、2度目はコミカル、3度目は悲しく見える。セリフは全く同じなのに。
同じシーンを繰り返す、というのは、映画的な演出方法の一つだが、それがミステリという形式と実によくマッチしていることが分かる。そしてこの物語は、形式はミステリだが、内容はミステリからはみだす。
ミステリの形式とは、前半と後半が、事件編と解決編で分かれていることだ。事件編の謎だった部分を埋めて、もう一度繰り返すことのが解決編だ。
本作の場合、前半で断片的に映された出来事が、後半で全ての情報が繋がった形でもう一度映される。謎だったものが解決される、という普通のミステリ的なカタルシスだけでなく、コミカルな物語が悲しい物語に、という、一度で二度美味しい感じになっている。
解決されてすっきりするものの、必ずしもハッピーエンドではない。


「映画化は難しい」と言われるトリック(?)についてだけれども、原作小説を読んでいないので、原作と比較してどうこうとはいえないが、これは非常にうまい具合に撮ったと思う。
映像で見るからこそ、物語の変化の鮮烈さは大きいではないか、とも思う。
同じ物語が、謎の解決前と後ですっかり見え方が変わってしまう、というミステリの面白さが巧みに引き出されている。
ネタバレはしたくないし、する気もないのだが、
何でブータン人という設定なのか、ということをよく考えてみるとわかるし、だからこそ映像化が可能になったのである。


主人公の椎名演じる、濱田岳がよかった。
まだそれほど有名な俳優ではないと思うのだけれど*1、入学したての大学一年生の頼りない感じとコミカルなやりとりが、作品の雰囲気を作り上げていた。
瑛太もまた、難しく、独特のキャラをうまく演じていたけれど、この作品はやっぱり濱田岳だと思う。
大塚寧々*2松田龍平は、むしろ彼らをバックで支えている感じで、抑え気味だったように思う。

*1:金八先生にでてたらしい。言われてみると、見たことあるかもしれない

*2:見るの久しぶりだったので気付かなかった。ああいう感じの人だったか