『現代思想2月臨時増刊ゲーデル』

ゲーデルというと不完全性定理ですが、それ以外にも色々とトピックがある人ですごいなあ。

が2本収録されているが未読。
訳・解題は、高橋昌一郎飯田隆

  • エッセイ

ゲーデルのもとで学んだことのある人の、ゲーデルについての思い出話

不完全性定理というとヒルベルト・プログラムを破産に追いやったと語られることが多いが、そもそもヒルベルトの考えていた「プログラム」というのはもっと大きいもので、不完全性定理によって破産に追い込まれた、というわけではない、とか。
数学(や経験科学)に関する哲学は、それらを外部から眺めるのではなくて、それらに内在しているのだ、とか。
やっぱりライプニッツはすごいぞ、とか。

論理学の基本的な説明から始まって、完全性定理と不完全性定理の説明までをたった7頁にまとめている。

ゲーデルにとって数学的プラトニズム、というのは、非合理な信仰のようなものではなくて、もっと実践的意義のあるもの。
プラトニズムを正当化する際には、存在論的課題と認識論的課題があり、経験科学とのアナロジーによってそれを解決しようとした。
経験科学では、感覚経験や感覚与件によってその理論や存在措定を基礎付け、正当化しているが、数学でも同じことができるのではないか。具体的には、算術が集合を基礎付けする(?)。

数学の世界には、直観主義(ブラウアー)、論理主義(ラッセル)、形式主義ヒルベルト)といった色々な立場があるが、その中でブラウアーの直観主義ゲーデルがどのように捉えていたか、という内容。

トンデモ科学?!
詳しい仕組みは全くといっていいほど分からなかったが。
宇宙がどうなっているのか、という問いには、いくつかの解があって、静的な宇宙とか膨張する宇宙とかがある。ゲーデルは回転する宇宙という解を導き出す。
この回転する宇宙においては、時間の順序が定義できなくなる。どうも、宇宙が回転するというのは、空間軸のみならず時間軸も回転するということらしい。その結果として、普通に未来方向に移動しても過去方向に移動する、タイムトラベルが可能となる。
なんでこんな論文まで書いているんだ、ゲーデルは!

  • 有限的であることと機械的であること 小川芳範

アインシュタイン宇宙論に興味を持っていたかと思うと、こっちではチューリングの論文に興味を抱いている。まあゲーデルは数学者なので、アインシュタインよりチューリングに興味を持っているのは全く自然なことだけど。ただ、チューリングってのがすごい奴だってことをかなり早くから見抜いていたらしい。
不完全性定理というのが成立するのは実は限られた系に対してであって、それをさらに一般化するために、チューリングによる「計算可能とは機械に計算可能であるということ」という定義を援用した。
ここでチューリングの機械に計算可能な計算というのは、「有限的」かつ「機械的」であることだが、ゲーデルは「有限的」かつ「非機械的」な手続の存在を指摘する。

  • 一九五六年の手紙 照井一成

いわゆる停止問題という奴に、実はゲーデルは関わっていた、とかなんとか。
現実的な時間(計算回数)で任意の問題を解くことができるかどうか。
数学の問題を、P問題とNP問題に分類すると、P問題というのは解くことが可能だということが分かっているが、NP問題に関してはまだ分かっていない。
ゲーデルは、コンピュータが数学の世界に入ってくる前の数学者なので、本当はこういうことと関係ないはずだし、NP問題なるものも知らなかったけれど、同じような問題を考えていた。

  • 不完全性の自然化 松野孝一郎

最初にパラパラと眺めていたときは、数学の記事が並ぶ中、量子とか遺伝記号とかいう言葉が目に入って、(数学と比べて)とっつきやすいと思ったのが、読んでみたら全く分からなかった。

  • GEBからCage,Filmachineへ 池上高志

GEBゲーデルエッシャー・バッハのこと、Cageは作曲家のケージ、FILMACINEは池上高志が音楽家渋谷慶一郎と行ったインスターレションのこと。
最近の認知心理学では、人間の心の中の時間軸がかならずしも一方向ではないことがわかっている(リベット、下條)。つまり、脳の中で起こっていることと本人の自覚とがずれている。
それはある全体のフレームがあって、その中で順序の入れ替えなどが起こっていると考えられる。
全体のフレームがあり、その中でバラバラと動かす、というのはケージのランダムな音楽やFILMACINEともつながる(らしい)。

「完全性定理というのは、おおざっぱにいうと「正しい命題」と「証明できる命題」というのは一致している、という主張」という書き方に、やっぱり小島寛之は分かりやすく書くのがうまいなあ、と思った。
しかし肝心の本文の方はよく分からなかった。
というか、内容は大体理解できたのだけど、共有知識に関してのわりとテクニカルなことだったので納得とかができなかった。つまり、共有知識を考えるに際して、この人のこういう考え方を導入するとやりやすくなるよ、みたいな内容だった。


現代思想2007年2月臨時増刊号 総特集=ゲーデル

現代思想2007年2月臨時増刊号 総特集=ゲーデル