『薔薇窓』帚木蓬生

直球でエンターテイメントの小説を読むのが久しぶりだったような気がする。
ミステリ、それもどちらかという社会派(謎解きのある本格と対比する意味で)。
そんなわけで話の筋とかはここでうだうだ解説するようなものではない。
1900年、第5回万博の開催されているパリが舞台。
近代化の進んでいくヨーロッパ、というのはわりと好きなので、それが丁寧に描写されていて面白かった。
世界史的には、日清戦争ドレフュス事件が終わって、義和団事件が起きている頃。
パリの市井の人々は、そんなニュースを新聞で見つつも、万博の度に近代化の度合を増していく都会に色々なことを思いながら日常を送っている。
フランスは一度行ってみたい国なのだけれど、それでかつ19世紀から20世紀にかけてっていうとさらに興味深い。というか、観光客として行ってみたい。
1900年のパリを旅行しているような感じになれる。それだけで、よい小説だ。


一応読んでいて気になったことも。
別にこの作品に限ったことではないけれど、二つの言語を一つの言語で表現するのはやっぱり難しいと思う。
具体的に言うと、この作品ではフランス語と日本語である。
この作品では最初フランス語の全く分からない日本人少女がフランス語を少しずつ身に付けていく過程が描かれていく。体系立てて教えられなくてもフランス語が身に付いてしまうものなのか、ということが気になるのは、自分が語学が苦手なせいなのでおいておくとして。
フランス語がうまくなった後の彼女は、日本語を喋るのと全く同じようにフランス語を操れるようになっている。それはそれでいいんだけど、そうすると何だか日本語っぽい言い回しをしてて、本当にそんな言い回しがフランス語にもあるのだろうか、ということが気になってしまう。
全員が流暢なフランス語が喋れる設定なら、別にそういう言い回しが出てきても気にならないんだけど。


薔薇窓〈上〉 (新潮文庫)

薔薇窓〈上〉 (新潮文庫)

薔薇窓〈下〉 (新潮文庫)

薔薇窓〈下〉 (新潮文庫)