グレック・イーガン『ひとりっ子』

待望の新短編集。
今回収録されてる作品は、どれも結構難しい。
「行動原理」「真心」は、イーガン作品ではよく出てくる、アイデンティティもの。というか、自分の趣味嗜好をコントロールできてしまう話。なんだけど、この手のイーガンの話は希望を感じさせるものが多いなか、この2作はかなり皮肉っぽい。
「ふたりの距離」もそういう意味で、上の2作と似ているけれど、こっちはかなり強烈。こういう究極のところへ連れて行ってくれるのは、イーガンならでは。
「決断者」はよく分からなかった……。
この短編集で一番面白かったのは、なんといっても「ルミナス」!
これはやばい。
ストーリーは、主人公がある世界の秘密を見つけ出したが、この秘密を悪用しようとする奴らがいて、彼らの手から秘密を守り抜き、悪用できないようにしなければなならい、という単純至極なものだけど、その「世界の秘密」とやらの正体がとてつもなくハード。単純なストーリーとハードなギミックという組み合わせだけで、すごい好みだ。
で、この秘密の内容がすごい。『無限論の教室』と『ウィトゲンシュタインはこう考えた』を思い出しながら読んだ。
数学の限界、世界の限界。そして、その向こうにいる、まさに絶対的な他者との邂逅。
こういうのぞくぞくする。
「オラクル」は、イーガン唯一の歴史改変もの。「ひとりっ子」と共に、多世界解釈がメインアイデアになっているのだが、残念ながらこれが全くもって分からなかった。
ただこのメインアイデアが分からなくても、どちらも面白く読める、一応。
しかし、「ひとりっ子」はこのアイデアが分からないと、本当のこの話の肝が分からないんだろうな。何となく言いたいことが分かるだけに、よけいに歯がゆかった。


ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)