『戦場のメリークリスマス』

戦争映画でもクリスマス映画(?)でもなかった。
狂気と聖性との出会い。
最後の2、30分が圧倒的。
半ば狂った日本軍のエリート士官が、キリスト教的聖なるものと接触する。
エリート士官であるヨノイは、イギリス兵セリアズを最初からかなり特別視しているが、それゆえにヨノイとセリアズは(ヨノイの期待とのギャップによって)すれ違う。
しかし、最後にセリアズはヨノイを赦す。
その赦しのシーン、そして、セリアズのその聖性に感化されたヨノイのラストシーンは、画面に圧倒され感極まるばかりである。
さらに感動を誘うのは、セリアズがそのように聖性を体現するには、ハラとローレンスという二人の目撃者的人物が触媒となっていたことだろう。ハラを演じたたけし*1は、正気でも狂気でもない絶妙な笑いを見せてくれる(ラストショットの笑顔もそうだが、むしろローレンスとセリアズを釈放するときの笑い声の方が印象的だ)。


演出にあたって、2つないし3つ。

  • 限定された空間
    • 舞台的な照明効果

何度も出てくる、印象的な効果がある。
画面の中央付近に役者が1人配置される。画面には彼以外何も映っていない。あたかも、暗い舞台の上でスポットライトに照らされたかのようである。

日本軍によるイギリス兵捕虜収容所が舞台となっており、いくつかの例外的シーンを除き物語は全てそこで進行する。
見終わってから気付いたので、もしかすると見逃しがあるかもしれないが、この作品に女性は全く出てこない。
日本兵もイギリス兵も(時代設定を考えれば当然だが)男性しかいない。また、収容所以外のシーンにも男性は出てこない。セリアズの回想シーンは、彼の寄宿生時代であり、やはり男性しかいない。唯一ローレンスの回想に女性が出てくるが、それはローレンスの台詞によってのみ語られ、女優が出てくることはない。

かの有名な戦メリのテーマ曲だけでなく、使われるBGM全てが独特の雰囲気を生み出している。
ことに、あのシンセサイザーの音、というのは今では使われることもなくなっているので、より効果的に感じられた。
こうした要素が、作品全体に独特の雰囲気を生み出す(舞台・時代設定は大戦中だが、戦争映画とは質を異にする雰囲気)と同時に、その雰囲気によって狂気や聖性、それらへの接触、感化というものの説得力が増す。


笑いどころ
ヨノイ演ずる坂本龍一のメイクが、まんまYMO


戦場のメリークリスマス [DVD]

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