桜庭一樹『砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない』

有名だから、という理由だけで買い、内容を全く知らず読んだので、軽く衝撃を受けた。
『ブルースカイ』もそうだったけれど、サバイヴしようと足掻く女の子の話。
砂糖菓子の弾丸とは、主人公山田なぎさの中学校に転校してきた少女、海野藻屑のことを指す。
山田なぎさと海野藻屑は、それぞれ別のやり方で子供時代を生き抜こうとしている。
早く大人になって“実弾”を手に入れたい、と考えるなぎさにとって、藻屑の不思議ちゃんっぷり=“砂糖菓子の弾丸”は苛立たしい。
ラスト3分の1で、一気に話が展開していき、なぎさは“砂糖菓子の弾丸”と“実弾”の前でただ呆然とするほかなかった。彼女には成す術がなかった。でも、彼女は弾丸について少しばかり知る。


花名島というクラスメートの少年と、藻屑が陥ってしまった、倒錯的な関係にはぞくっとする。
“砂糖菓子の弾丸”が戦い続けてきた狂気の片鱗が垣間見える。花名島は、運悪く感染してしまった。一方で、その光景は、なぎさにはただただ不気味なものとして映る。彼女は、藻屑に対して何もしてやれなかったわけだが、狂気の感染も免れた。主人公ではあるのだが、状況に対して積極的に関与できていない。
というよりも、なぎさと藻屑は圧倒的に違っていて、お互いに理解しあえないからこそ、友情があったのかもしれない。


山田なぎさの兄、友彦がいい。
友彦は、引きこもりで3年間家の外には出ていない。しかし、なぎさはそんな兄を神聖視している。それは、なぎさ曰く“神の視点”を彼が有しているからである。実生活には何の興味も関心も示さない。いわば俗世を超越したような振る舞いを見せる。
だが、最後に友彦は、“神”のレベルから俗世のレベルへと降りてくる。成す術もなかったなぎさを支えるために。


子供時代というセカイをサバイブし、逃げ出すための物語。
そして、逃げ切れなかった者への物語。

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)