高橋源一郎『日本文学盛衰史』

高橋源一郎ってまだ読んだことないんですよ
って先輩に言ったら、
これを読め、と貸してもらった一冊。
その場に居合わせた別の先輩からも、「ちょーおもしれぇよ」のお墨付き。


文庫にして658ページ、97年から00年にかけて書かれた作品。
という、普段書かないような説明から始めたのは、あまりにすごくて一体何から書けばいいのか分からないから。
帯に「おもしろくてためになる」「奇人変人乱れ飛ぶ」という煽り文句があるのだが、
そんなんではきかない。
とかく、抱腹絶倒、爆笑に次ぐ爆笑が待っている。
石川啄木は援交女子高生を買いまくり、田山花袋の『蒲団』はAVになってしまう。
明治と現代が複雑に入り混じって物語は進行していく。
明治あるいは近代文学なんてほとんど読んだことがないし、文学史にも明るくないが、
これを読むと、明治の文豪がぐっと身近になる。
少なくとも、現代の作家くらいには身近に感じられるようになる。
読んでいてずっと、何故か佐藤友哉をずっと意識していた。
現代と混じりあっているせいもあるが、明治の問題と現代の問題がストレートに繋がっているのが分かる。
というより、明治と現代が繋がっている、あるいは同じだからこそ、明治と現代が混じり合って描かれるのだろう。


明治の文豪が、大体一人ずつピックアップされていくのだが
田山花袋
「『蒲団’98女子大生の生本番』」と
夏目漱石
「原宿の大患」
はとかく圧巻である。
この二つは、メタフィクションっぽいけど、もうなんかメタフィクションというのがはばかれるような感じすらする。
明治と現代を混ぜる、というのが、とにかく笑えるんだけど、その仕掛けがこの二つの章では効いている。
この二つの章は、止まらない。
「原宿の大患」以降は、もう笑いどころは特にないけれど、もうそれどころではない。


人間は、虚構世界と現実世界を生きている。
最近覚え立ての言葉を使うなら、ビオスとゾーエ(使い方あってるのかどうかはともかく)。
前者は、言語で構成された世界あるいは脳内(あるいはイメージも含まれるだろう)。
後者は、実体というか他者というか。
人間はそのメカニズムからいって、前者を使わないと後者を認識することができないのだが、しかし前者はあくまでも虚構であって絶対に前者を正確にトレースすることはできない。
そのことにすっかり気付いてしまいながら、それでもなお「書く」ことしかできない者たちの悩みの愛おしさ。
二葉亭四迷田山花袋石川啄木
中原昌也佐藤友哉
言葉なんて一切信じちゃいないのに、なお言葉でしか自分や世界と切り結ぶことができない。
そしてそんな話が延々と、言葉でもって描かれる『日本文学盛衰史
自然主義文学やる奴は、みんなビデオ使えばいいじゃないか、という最もな指摘だって決して妥当ではない。
高橋源一郎夏目漱石高橋源一郎森鴎外、そしてこのオチ
多分、虚構世界(言葉・脳内)は「超越」を希求し、現実世界は「内在」に安住する。
そして、「超越」だと思っていたものは、実は「内在」に過ぎないのだ、ということを示すことが「文学」なんじゃないかと思ったりする。
ファウストVol.1のトークセッションで佐藤友哉は、道に飛び出した子猫をパッと助けるようなものを書きたいんです、と言っている。
それってきっと、「この子がぼくの年齢になった時ぼくはこの世に存在しないということが、なぜかぼくには大きな喜びだ。」という一文とその後に続くシーンが表現していることだと思うし、
あと、全然関係ないと思われるかもしれないが、四季賞を取った作品にもいくつかそういうのがあると思う(例えば豊田徹也『ゴーグル』とか)。


なんかあまりにすごくて、あまり書けない。
とにかく、「『蒲団’98女子大生の生本番』」と「原宿の大患」はすごいんだけど、もううまく説明できない。
あと、長い作品だったし、一貫したストーリーなわけではないし、一貫したストーリーとしてある文学史のことはよく知らないし、で、ディティールに関して頭から抜けてしまってる。
高橋源一郎自身が言っているけど、最後の方はエピローグが何個も何個もある感じだし。
「原宿の大患」とそれに続く章が、クライマックスなので、その後は次第にテンションとしては下っていく感じになってしまう。でもそれはやっぱり必要で重要なので冗長なわけではないんだけど。


とにかく、文学なんて本当はいらないわけで、でも何故かそれを始めてしまうわけで。
このどうしようもなさ。
文学は絶対にうまくいきっこない。
特に日本近代文学は。
ということに、日本近代文学を始めた人たちは実は気付いていて、でもそれを引きずっていて。
だから、明治の問題と現代の問題は全く等号で結ばれてしまったりするわけだ。
というようなことは、別に大塚英志だって散々言っていることなんだけど。


とにかく、前半では思う存分笑い倒して、真ん中らへんで構造に驚愕し、後半で考え込む、みたいなそんな本。
本当にいいのか、こんなまとめで?
でも、個人的読後感としてはそんな感じ

日本文学盛衰史 (講談社文庫)

日本文学盛衰史 (講談社文庫)

おまけ

ライトノベル作家生年順一覧
っていう便利なもの見つけたよ
http://d.hatena.ne.jp/medicineman/20041210#p1
対象は、ラノベ作家には限定されない感じ。