黒沢清『CURE』

シネマヴェーラ渋谷にて、今月は黒沢清が延々と流されている。
黒沢清による絶対に成熟しないKUROSAWA映画まつり」
もし東京に住んでたら、毎日行くのに!!
今日は、所用で東京に行くことになっていて、ものはついでということで見てきた。
テレビ番組「学校の怪談」から黒沢が担当した3本と、『CURE』を。

学校の怪談

「廃校綺談」「木霊」「花子さん」
当たり前だけど怖いw
最近とってる授業で、フレームの話をしていて(その授業の中でこの黒沢の映画まつりを知った)
それで、フレームを意識して見ていた
ホラー系の映像作品の怖さのもとは、フレームの作り方にあるんだなぁ、と思った。
同じ監督が同じテーマで撮ってるのだから、3本とも似ているのは当たり前といえば当たり前だけど、でも多分学校の怪談には、何かしらルールというか撮り方みたいのがあるんじゃないか、と。
主人公視点とか、主人公を低いアングルから撮りにいって、一回フレームアウトさせておいてもう一回振り向くと、「いる」w
あと「廃校綺談」の中で、主人公は廊下に座っている。その後ろは理科室の窓。理科室には「いる」わけです。理科室の窓がフレームの中のフレームの役目を果たしている。主人公の後ろ、フレーム越しに霊。
なるほど、向こう側とこちら側なわけだ。
向こう側の人たちがフレームの向こう側にいる限り、主人公も平静なのだけど、ある時フレームのこちら側へと浸蝕してくるや否や。
「廃校綺談」と「木霊」のあいだに入った、アニメーションがまた面白かった。
授業中、ノートに落書きしていた少年は勢い余ってページに穴を開けてしまう。ところがその穴は、裏に貫通していない。異界に通じてしまっていた。その穴でうごめく、異形の存在。思わずノートを閉じて、あたりを見回す。いつも通りの教室。否、教師が異形の存在と同じ描線で描かれる。同級生が、教室全体が。彼はそのページそのものを破って窓から捨てて事なきを得る。
これはもう、「(宮台のいうところの)世界」との接触に違いない!!
自分以外はみんな異形の存在かもしれない、という感覚は、幼い頃しばらく持っていた。
とりあえず、3本とも全滅で、学校の怪談ってそんなにダークだったのか、とちょっと驚いた。
あと、中学の時の雰囲気がリアルで、これまた怖い(^^;
なんというか、中学生の持ってる空気感ってこんな感じだよな、と。

CURE

若干のネタバレを含む(まあ未見でも問題ない気はするけど)
これはホンモノ!ヤバい!怖い!
クレジット見ている最中に、胸のあたりがうっときた。
かなり強い映画で、ダメージも結構食らうと思う。
荻原聖人が催眠術使って、人殺させるという話なのだが、あれは催眠術というよりもカウンセリングな気がする。
まあ、催眠術もカウンセリングもろくに知らないが。
最強のカウンセラー萩原聖人が、病める現代人を次に次に癒していくが、ついに出会った役所広司は患者のようで患者でなかった、というか。
患者とカウンセラーの間で転移が起こったりすることが、あったりなかったりするらしいが、とにかくCUREは転移、転移、転移!
オープニングでかかってる曲が、これまたいい。いきなり引き込まれる。
荻原が「カウンセリング」を始める瞬間の、構図とか、すごい力がある。その構図を見てるだけで圧倒されるものがある。
これは、「世界」に触れて「社会」に再び戻ってくる話なんだけど、戻ってくるといっても戻ってこれてるんだか。
「社会」に生きている限り、人間の心というのは完全に謎、闇の中だ。そこには触れてはいけないし、触れることなどそもそもできない。自分自身であっても。しかし、それで本来なら何の問題もない。「本心」など知らずとも(むしろ知らない方が)、平穏無事に生きていくことが出来る。
だが、「カウンセリング」はまさに「本心」へと迫る。「世界」へと迫る。
「世界」に触れた役所広司は、マジで怖い。「暴力」が次々とあふれ出る。
「社会」から「世界」へと行くとき、あるいは「社会」へと戻っていく時のポイントは、おそらくバスの心象風景とワイシャツだと思う。
普段、服に注目をしない人間で、ワイシャツの件はあとから気付いたので、断言は出来ないが、クリーニング店でワイシャツがもらえなくて、ワイシャツではなく黒いシャツを着ている最中の役所広司は「世界」に触れっぱなし。
それで、ファミレスのシーンを比較すると、黒いシャツの時は何も食えてないが、ラストシーン、「社会」に(一応)戻ってきてワイシャツになっていると、健康そのものになっている。健康になった(CUREされた)理由はまあ映画を見てください、なんだけど。その差異が怖い。
ストーリーももちろん怖い話なんだけど、やっぱり映像だな。
何気ない映像のはずなのに、なんかゾっとするというかうっとくる。
直前に、学校の怪談見たせいなのかもしれないけれど。
黒沢清の他の作品も見たい、と強く思った。

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