松下哲也「ビアズリーの挿絵はマンガの形式に影響をおよぼしたのか?」(『ユリイカ2019年3月臨時増刊号』)


以前、このツイートを見かけて気になっていたのだが、昨日ちょうど以下の記事を読んだので、その勢いでこれも読んだ
とにかく「様式」については、下記の松永さんの9bitがとてもよくまとまっているので必読
松下さんの「ビアズリーの挿絵は~」は、形式の話であって様式の話ではない。
9bit.99ing.net
togetter.com



松下哲也「ビアズリーの挿絵はマンガの形式に影響をおよぼしたのか?」

なお、松下のいう「形式」というのは「芸術形式」のこと、でよいと思う。
一般的に、芸術形式というのは、小説、詩、絵画、彫刻、映画、マンガ、音楽などのことを指す。松下のいう「形式」も大体そのことを言っていると思う。
(「『パタリロ』はマンガという芸術形式の作品だ」とかそんな使い方でよいと思う)
一方で様式というのは、例えば「村上春樹風の文体」とか「バロック様式」とか「70年代少女マンガっぽい絵柄」とかなんかそんな感じのもののこと、でよいと思う。
で、この松下論文は、芸術作品について、AがBに影響を与えたという時、それにはいくつかのレベルがあるよ、というところから始まる
つまり、(1)引用レベル(2)様式レベル(3)形式レベル
で、(1)や(2)の影響関係についていえば、ざっくり言ってしまえば、作品の見た目を比べれば言うことができる
しかし、(3)レベルの影響関係は、作品だけ見てても分からなくて、その背後にある理論や教育のことまで調べないということができないよ、というのが趣旨
その上で、19世紀イギリスの挿絵(ないし19世紀西洋美術)という芸術形式と日本のマンガという芸術形式の間に影響関係はあるのか、ということを、前者の背景理論である観相学がキャラクター造形に使われていたことから見出そうとするという試みで、このあたりは松下の著作がより詳しい。
また、日本の明治期の美術教育においても観相学が用いられていたようだ、というあたりで、日本のマンガへの接続が論じられるのではないか、という見込みでしめられている。
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その他

せっかくなので、他の論考もいくつか読んでみたが、これらは流し読み

  • 高田敦史「謎と陰謀としての世界 広義ミステリとしての『パタリロ!』」
  • 三浦知史「型で遊ぶ スヌーピーパタリロ
  • 伊藤剛パタリロのすまう「場所」 マリネラ国埼玉県霧のロンドン空港」
  • 平松和久「デコレーション!のマンガ 魔夜峰央のマンガ空間」
  • 島村マサリ「これはやはり「ディス」なのだ 2019年の「翔んで埼玉」論」

この中では、平松の、コマ空間・物語空間・場面空間・解釈空間という4空間論(?)を用いて、心象空間や装飾ということについて論じているものが気になった。

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2019年振り返り

今年ももうそんな時期っすか
今年、特にこういう記事を書くつもりはなく、何の準備もしていなかったのだが、去年も28日だか29日だかに振り返り記事を書いていたようなので、まあちょっと書いてみるかと。

ブログについて

ブログ運営的な点でいうと、はてなダイアリーからはてなブログへ移行したのは2018年なんだけど、記事のカテゴリーを試しにだいぶ増やしてみた、というのが2019年のトピックかもしれない

今年の概観

自分の中では、一応繋がりをもって色々読んでいるつもりなんだけど、今年の記事を振り返ってみると、随分とバラバラした感じになってしまったなーというところ
小説をわりと読んだので、読んだ本の冊数は多少は稼いだかなという気はする
美学関係の勉強があんまり進まなかったかな、とも思う。まあ、ちょいちょい関連領域の本とかは読んだりしたのだけど。


1月は主にSF小説
2月は引き続きSF小説読み月間だが、最後に芥川賞で「ニムロッド」や「居た場所」を読みつつ、文学ということで(?)『黄泥街』読んでる
3月もやはり主にSF読みつつ、宇宙開発系の本をちらっと眺めつつ、『この世界の片隅に』や『ラブ、デス&ロボット』を見ていたりしていたようだ
4月は、アストロバイオロジー本、合成生物学関連をちょこちょこ
5月は、美学系読んでいる感じ。4月と5月の間にイーガンとワッツ読んでる
6月は再び小説が主な感じになり
7月から10月半ばまでは、時々小説を挟みつつも、小説じゃない本をメインに読み進めた感じ。美学というか美術系の本を読みつつ、しかしそれ以外の本も読みつつという
10月末から11月は再びSF読んで、
12月はほとんど雑誌読んでいた感じ

面白かった小説

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シリーズものの途中なので、今ここで特にコメントはないけど、2015年と2017年の振り返りでも面白かった本として挙げてる(2016年はこういう振り返り記事を書いていない、2018年はエルピスの新刊が出てない)。
まあとにかく絶対面白い作品


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イーガンはやっぱり面白いよね、ということで


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SF読んでると、まあアンソロジーをわりとよく読むことになるけど、やっぱ作品ごとに面白かったかどうか差が出てくるので、本一冊としてこれ面白かったって挙げにくいんだけど、これはどの収録作も面白かった


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これもシリーズものの途中なのでなんですが、マルドゥックシリーズもいよいよ終わりが始まってくるなあという感じ


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なんかこの時期にtwitterでは津原泰水騒動があったけど、それきっかけで今年は津原泰水を3冊ほど読んで、『ブラバン』は間違いなく傑作だなあと。これはほんとめちゃくちゃよい作品。


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これも短編集なので作品ごとに色々なんだけど、収録作の「ビザンチン・エンパシー」がとてもよかったので


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どういう作品か一言で説明しづらいけど、これもまたとても面白かった奴


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これはもう、神町サーガ改め神町トリロジー完結編なので、挙げざるをえない奴
今年、山形に住んでいる先輩に久しぶりに会う機会があったので、薦めておいたw


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「魔術師」と「嘘と正典」は間違いなく面白い奴
SFとしてもすごいし、ミステリ的なところもあるので、ミステリ系読む人も楽しめると思う


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このアンソロジー、めちゃくちゃレベル高いと思う
特に最初の2編「平林くんと魚の裔」と「もしもぼくらが生まれていたら」は、宇宙の話でもあるし人類についても考えさせる話でもあるし
というわけで、全くそんなことは意図していなかったのだけど、オキシタケヒコで始まりオキシタケヒコで締めるラインナップとなりました
いやしかも、ちょうど10冊か。これも別に10冊選ぼうとは思っていなくて、テキトーに面白かったの拾っただけだったのだが。

科学とか

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タイトルに(一部)って入ってるのひどいなw (一部)とある通り実はまだ全部読めてなくて、あとで読み直そうと思っている本だけど、面白かったのは違いないので挙げる
タイトル通り経済学についての本だけれど、社会科学の哲学ともつながっていて、そっちの方面の興味から読める


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これはなんというか、とにかくすごく濃い本を読んだな、という濃密な読書経験ができるという点で、すごく印象に残る本。倉谷滋だと以前読んだ『形態学』もそうだった。
ほんと、新書とは思えない濃さ


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自由エネルギー原理についての勉強
予測コーディング理論から自由エネルギー原理への流れ、みたいなのが脳の研究においてきてるというのは2017年頃に知って、2018年にフリスの本読んで、今年はこれ、という感じ
そういえば、『日経サイエンス2019年12月号』 - logical cypher scape2でも、予測装置としての脳という記事があったし、脳の仕組みとしての予測装置というのはもう完全に定着しているんだなーと

哲学

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というか、美学じゃない哲学の本は今年、この2冊しか読んでいないのでは(雑誌は多少読んだが)
ウィトゲンシュタイン、前期と後期についてのものをそれぞれ読めてよかった

美学・芸術

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これは版元がプレイリストとか作ってくれててよかったなあ


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これだけ、他の本とちょっと毛色が違うけれども、これはこれでかなり楽しんだ本
これと柴田勝家『ヒト夜の永い夢』 - logical cypher scape2きっかけで、筒井清忠編『昭和史講義――最新研究で見る戦争への道』 - logical cypher scape2筒井康忠編『昭和史講義【戦前文化人篇】』 - logical cypher scape2を読んだりと、自分の中にプチ昭和史ブームが来ていたのだった


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科学と美の関係というのはちょっと気になっているテーマで、この論文で最後に「理解」というトピックもでてくるのだが、それも最近ちょっとキーワードかなあという感じがしている


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視覚文化論・キャラクター論として面白いし、マストな本なんじゃないでしょうか


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分析美学と抽象絵画というのが、個人的にちょっと気になっているテーマで、それの一歩目として読めたし、わりとこれ考えるきっかけにできそうかなとも思っている

映画

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今年、映画は全然見ていなかったようだ
こっちのブログに書いてる劇場で見た映画は2本、向こうのブログに書いてる劇場行ってみたアニメ作品が3本
さて、今年はアポロ11号50周年だったので、ドキュメンタリー映画の『アポロ11』も見たし、他にも各種科学雑誌のアポロ特集読んだり『月をマーケティングする』を読んだりしていた。

日経サイエンス2020年1月号

12月号を読んだ勢いで1月号も読んだ。
ただし、かなり飛ばし読み。

特集:AI 人工知能から人工知性へ

想像力を手に入れたAI 知性獲得につながる3つの方法  G. マッサー

想像力を手に入れたAI 知性獲得につながる3つの方法 - 日経サイエンス

飛ばし読みすぎて、サブタイトルにある3つの方法の3つが何かすらちゃんと把握してないが、そのうちの一つであろうGANのところと、ディスエンタングルメントのところを読んだ
本題ではないが、GANもいつもうまく言ってるわけではなくて全然リアルじゃない画像しか生成できないこともあるのね
敵対ではなく、2つのネットワークを「協力」させる奴もあるとか
ディスエンタングルメント、やはり飛ばし読みなのでちゃんと分かってないが、面白そうな話だった。要素を抜き出す、というようなことかな

科学がAIで変わる  吉川和輝

科学がAIで変わる - 日経サイエンス
これ、上の記事紹介にもあるが、深層学習使って量子力学の研究して発表したら、「それ私が見つけたのと同じですね」と言われて驚いたというエピソードのインパクトが強い
もちろん、剽窃とかではなくて、AIでも人間がやるのと同じことができたという話
科学の方法論であるところの帰納機械学習って親和性があるのではとか
あと、ロボット実験室。実験をロボットにやらせる。

科学の方法論に革新  語り:岡田真人/ 聞き手:吉川和輝

スパースモデリングについて
スパースとは「すかすか」
データは大量にあるけれど、知りたいことに関与しているのは少ないという仮定でモデリング。生物学などで実際に適用してみたら結構うまくいく、みたいな話

騙されるAI  瀧雅人

騙されるAI - 日経サイエンス
薄いノイズを入れると、人間には同じ画像に見えるのに、AIが全然違う判定しちゃう例の話(敵対的事例)
敵対的事例はどんどん作ることができるのだが、AIが何で誤るのか分からないので、根本的な対策ができない(対処療法的な対策は色々あるが、いたちごっこ
次元の呪いのせいではないかとも言われている。
例えば、紙に四角形と立方体の図を書く。それぞれ、頂点と中心までの距離を求める。紙の上では同じ距離に見えても、立方体の方が実際には距離が大きい。次元を増やすとさらに大きくなっていく。
些細なピクセルの差が、AIにはとてつもなく拡大されているのではないか、と。
ディープラーニングによるAIは、人間には何やっているかわからないと言われている。正確には、AIがどのような計算をやっているかは全て見ることができ、ブラックボックスはないが、計算量が膨大すぎて人間に解釈することができない、ということ
で、それの解決策として、計算の視覚化というのがあって、出力に関係している要素に色をつけるみたいなのがあって、それをやると「なるほど、ここに注目してパンダだと判断したのね、確かに、画像の中のパンダが映っている箇所に注目してるね」みたいなことが分かるとか

特集:深海生物

光るサメの謎  出村政彬 協力:佐藤圭一/大場裕一/近江谷克裕

光るサメの謎 - 日経サイエンス
特に読もうと思っていなかった記事なので、ページをめくってきたときに目に入ったとこだけ
なんで光るのかよく分かってないけど、カモフラージュのためじゃないかと、海の中で真下に向かって発光すると、下から見ると太陽の光と紛れる的な話。真下以外の方向に光が漏れると逆に目立つ。発光器官の構造を調べると、果たして真下にだけ発光するようにできてる。
ただ、実際に海の中で光っているとこ調べると、これだけだと説明できないらしい。
あと、発光生物の系統樹の図があったけど、すげーたくさんいる

中性子星の中はどうなっているか  C. モスコウィッツ

中性子星の中はどうなっているか - 日経サイエンス
超流体という状態になっているか、ストレンジクォークに変化したハイペロンという状態になっていると考えられている。
中性子星が衝突した時の重力波が観測されるようになったことで、今後、仮説が確かめられるようになるかもしれない、と

NEWS SCAN ●海外ウォッチ

  • 先延ばしを防ぐ支援ツール

タスクを分解して、やるとご褒美ポイントを付与してくれる、いわゆるゲーミフィケーションツール。認知支援。

  • 軌道上の歴史

宇宙デブリを調べて、人類が宇宙に打ち上げてきた人工物の歴史を調べる研究の話なのだが、この記事ではその研究のことを「宇宙考古学」と呼んでいて「?」となっている
宇宙考古学というと、衛星画像を使った考古学のことでは?

グラフィック・サイエンス 温暖化自然変動説にとどめ

小氷河期などに起きた気候変動と、現在起きている気候変動とを比較。過去、歴史上に起きた気候変動は、例えばヨーロッパだけなど起きてる場所が限られていたが、現在起きている気候変動はグローバルに起きていて、全く異質であるという話

『日経サイエンス2019年12月号』

日経サイエンス2019年12月号(大特集:真実と嘘と不確実性)

日経サイエンス2019年12月号(大特集:真実と嘘と不確実性)

NewsScan●海外ウォッチ

卓上の重力波検出器

卓上の重力波検出器〜日経サイエンス2019年12月号より | 日経サイエンス
アーム長10mの検出器をつくる計画
TAMA300ですら300mあったのに?!

あなたも感じる「数学の美」

数学者と心理学者の共同実験
数学の素人に対して、数学的陳述を読んでもらい(その理解度をテストしたうえで)、それがどの絵画と似ていると感じたか質問するという実験
回答の一致率が高く、驚きの結果
この記事、美学者のコメントがなくて、美学の知名度の低さを感じる。

特集:真実と嘘と不確実性

www.nikkei-science.com

物理学 物理学におけるリアリティー  G.マッサー

物理学におけるリアリティー | 日経サイエンス
何となくバラバラと色々な話していた記事だった(実在論反実在論量子力学、意識)

数学 数学は発明か発見か  K. ヒューストン=エドワーズ

数学は発明か発見か | 日経サイエンス

数学には、発明のように思える部分と発見のように思える部分の両方がある、という話
発見段階と証明段階の違いとして、ゴールドバッハ予想の話とか(ゴールドバッハ予想にあう偶数は次々と「発見」されるが、それを定理とするには「証明」が必要)
最後に、プラトニズム、形式主義、フィクショナリズムといった形而上学的立場がいくつか簡単に紹介されるが、実際の数学の営みには影響しないよねーと結論されている

神経科学 脳が「現実」を作り出す  A. K. セス

脳が「現実」を作り出す | 日経サイエンス
青色にも金色にも見える例のドレスの話を枕に、予測装置モデルの話
ツートーン写真の実験(何が写っているか分からない白黒写真が、カラー写真見た後だとわかるようになる)
VRヘッドセットを使った実験
現実と区別のつかないVR映像を作ることはまだできていないが、事前に録画していたものを時間差つけてみせると、実際に起きていることと錯覚する
これは、現実だという認識も知覚に影響を及ぼすということ
また、知覚の鮮明さと「現実らしさ」の感覚は別(薬物の幻覚や明晰夢の例、あるいは共感覚者は、現実ではないことを認識しつつ知覚している)
「現実らしさ」の感覚は、ベイズ的な最良の推測がもたらす側面

ネットワーク科学 デマ拡散のメカニズム  C. オコナー/J. O. ウェザオール

デマ拡散のメカニズム | 日経サイエンス
反ワクチン派が広まった理由の研究


情報が拡散していく仕組みをモデル化
まず「伝染モデル」
近くの人から情報が単純に伝わっていくというモデル
「認識フレームモデル」
AとBのどちらがよいかという信念をもっていて、エビデンスを共有して信念を更新していくモデル
しかし、このモデルはコミュニティ全体が最終的に同じ意見に達し、現実のように二極化しない。このモデルには「社会的信頼」と「大勢順応主義」が欠けている
ある人を他の人よりも信頼するという「社会的信頼」
他の人と同じように行動する傾向という「大勢順応主義」
さらに、反ワクチン派が行ったキャンペーンとして「選択的共有」や「レトリック戦略」を挙げている
好ましいエビデンスだけを提示する「選択的共有」

意思決定科学 過剰な心配,過小な心配 リスク判断の心理学  B. フィッシュホフ

過剰な心配,過小な心配 リスク判断の心理学 | 日経サイエンス
例えば、原子力に対するリスク評価。リスクを高く見積もるのは、死者数を過大に評価しているせいではと研究してみたら、リスクを高く見積もる層も死者数の見積もりは高くなかった。ある特定期間に重大な事故が起きる可能性の見込みが違っていた。
また、記事内コラムみたいな内容で主題ではなかったが、科学リテラシーが高くなるほど、リベラルか保守かで意見対立が激しくなるという調査結果が紹介されていた。リテラシーが高くなるほど、自分の属する政治集団の立場に合わせたり、より自信をもって主張するようになるからではないか、と。

データ科学 エラーバーの読み方  J. ハルマン

エラーバーの読み方 | 日経サイエンス

データの不確実性を視覚的に表現する方法あれこれ
様々な方法のメリット・デメリットを比較している
紹介されているのは「そもそも定量化しない」「信頼区間(エラーバーや信頼帯など)」「確率密度の図(箱ひげ図、バイオリン図など)」「アイコン列」「複数例を空間に並べる」「複数例を時間的に並べる」「複合的アプローチ」

社会心理学 自己不確実感が社会を脅かす  M. A. ホッグ

自己不確実感が社会を脅かす | 日経サイエンス
アイデンティティが揺らいで「自己不確実感」があると、社会的集団への帰属を求め、何をすべきか命じてくれる人を求める
ポピュリズムの温床になる、という話


社会学 情報操作社会に生きる  C. ウォードル

情報操作社会に生きる | 日経サイエンス
フェイクニュースとネットミームについての話
まず、「フェイクニュース」という用語は、色々なものをごちゃまぜにしているので問題ある用語だとした上で
「誤情報(ミスインフォメーション)」意図的ではない間違いやミスリード、風刺など
「偽情報(ディスインフォメーション)」損害を与えるための虚偽
「悪意の情報(マルインフォメーション)」間違ってはいないが損害をあたえるもの
偽情報が、悪意なくシェアする人々により誤情報になって広まっていく、としている
また、悪質なものは、偽情報ではなく、本物ではあるのだがそれをミスリーディングな形で送るもの。筆者は「コンテクストが兵器化されている」と述べる。従来の報道のやり方では、ただ拡散に手を貸すだけになってしまっていてよくない、とも
ミームについて
2019年に「Memes to Movements」という研究所が出ているらしいのだが、こういう調査は比較的まれ、と書かれている
ネット上の情報についての研究や調査も、画像解析よりも自然言語処理の方が進んでいるので、テキストベースのものに偏りがち
SNSの広告は、ターゲッティングが進んでいて、研究者からは誰にどのような広告が見えているか分からなくてやはり追跡が困難に
「アストロターフィング」いわゆるステマというか、偽のレビューを書いて好意的な支持が多いように見せかける手法について、こういう名前がついているらしい


特集:真実と嘘と不確実性ということで、真実や不確定性について、様々な分野の学者のコメントがコラム的に寄せられている。
「医者の視点」「歴史言語学者の視点」「古生物学者の視点」「社会技術者の視点」「統計学者の視点」「データジャーナリストの視点」「行動科学者の視点」「神経科学者の視点」「理論物理学者の視点」
統計学者が、p値について書いてる。p値だけを根拠にするのはよくない。他の尺度もあわせて公開していくことが大事ということを書いている

グラフィック・サイエンス 肥満と寿命:グラフの読み方

グラフの見方について、以下のような方針が書かれていたので引用

どうすべきか
1 グラフが示していることだけでなく、示していない可能性のあることを読み取ろうと努めよ
2 結論に飛躍するな。特に、グラフがあなたの考えを追認している場合には。
3 自分がグラフの内容を正しくとらえているかどうかを自問せよ
4 自分が推論しようとしている事柄に必要とされるものをデータが代表しているかどうかを考えよ。いずれの場合芋、相関関係は因果関係とは別物であることを忘れるな

記事の内容としては、肥満と余命が相関しているグラフから「太った人は長生き」と言いたくなるが、本当にそうかという例

ブックレビュー

  • 古生物学を楽しむ 平沢達矢

5冊ほど紹介されているけど、速水格『古生物学』というのがよい教科書らしい

『文学+01』


2018年11月頃に読んで、そのまま読みさしになっており、ちゃんと読めたら感想を書こうと思っているうちにもう1年以上過ぎてしまい、さらに02号の宣伝も見かけてしまったので、とりあえずここだけ読んだというメモだけ残しておくことにした。

【討議】
・文芸批評と文学研究、そのあいまいな関係をめぐって(浜崎洋介×坂口周×梶尾文武)
【書誌】
・文芸批評×文学研究 2000-2004
【書評】
・<メディア>としての美妙 大橋崇行『言語と思想の言説』(大石將朝)
・「退屈な正義」を超えて 佐藤泉『一九五〇年代、批評の政治学』(平山茂樹)
【論文】
大江健三郎ノート 第1回・第1章 一九五四年の転向(梶尾文武)
唐十郎論ー肉体の設定(清末浩平)
・<水>の変貌ー永井荷風『すみだ川』、『狐』(倉数茂)
・消滅の寓意と<想像力>の問題ー大江健三郎から村上春樹へー(坂口周)
・被傷性と呼びかけ 今村夏子『こちらあみこ』の世界(内藤千珠子
村田沙耶香の「物語」と「私」 脱<二十世紀日本>文学史試論(中沢忠之)
・メタファーとパースペクティブー認知物語論と移人称の問題(西田谷洋)
・ 女子的ウェブ文化とブログ詩の問題(ni_ka)


冒頭の座談会と中沢さんの村田沙耶香論、西田谷さんの認知物語論と移人称論、ni_kaさんの女子web文化論について読んだ。


座談会のメンバーというのが、大学の准教授で文学やっている人が2人と、文芸評論家が1人。
文学研究と文芸批評の違いとはなんぞや、みたいな話がテーマになっていて、「文学」と「政治」、「実践」やら「実存」やらの話になっていく。
文学研究と文芸批評の違い、みたいなものがテーマになるのが面白いな、と。
文学について論じたりなんだりするジャンルとして「文学研究」と「文芸批評」の2つがあるのが、まず面白いな、と。
例えば、映画とかだと、もちろん映画研究と映画批評は別ジャンルとしてあるけれど、その両者の違いを論じたり、架橋を試みたりする座談会が行われるようなイメージはしない
他の分野だと、そもそも「研究」と「批評」みたいな分かれ方自体、あんまりしてないような
・同じ文学を論じたりする分野が、2つ独立して存在している
・その2つの違いを云々する際に「文学するとはどういうことか」みたいな問題が関わってくる
この2点が、かなり文学独自の問題な気がする。

たつざわ「芦田漫画映画製作所の通史的な解明」

(おそらく)2018年5月の文フリで購入し、その直後に読み終わっていたもの
感想メモも、読んだ当時に書いているのだが、何故かブログに載せずに放置されていたので載せる
何故か、というか、おそらく同時期に買った他の同人誌と一緒に感想をあげるつもりだったのが、そっちの感想を書きそびれているうちに、こちらの感想も載せ損ねていた
以下、2018年5月に書いていた感想


文フリで購入した、たつざわさんの「芦田漫画映画製作所の通史的な解明」が面白い
アニメーション史については疎いので、芦田漫画映画製作所というのが何なのか全く知らなかったし、またこの論文が、アニメーション史研究にとってどういう位置づけになるのかも分からないが、すごかった。

芦田漫画映画製作所というのは、戦前から戦後にかけて活動してたアニメーション制作会社で、1946年に手塚治虫が上京した際に、入社しようとして断られたという逸話を持つ会社らしい。
ただし、あまり実態がよく分からないらしく、たつざわさんが、主に会社登記簿を確認しながら、各種資料にあたって、まさしく会社の通史的解明を試みている。
これまで、関係者の回想などにおいて、芦田漫画映画製作所や当時の他の制作会社について、多少言及されていたようだが、社名自体がはっきりしなかったりしたようだ。それを登記簿を追うことによって、正式な社名や所在地を確認し、ここで言及されているこの会社はこの会社のことだろうと確かめていっている。
また、芦田漫画映画製作所の芦田巌をはじめ、複数の通名を用いている人などがいて、登記簿などから生年月日を確認するなどして、同一人物かを判断している。この名前が本名で、この名前が通名で、この名前は何年から何年まで使っていた、などを調べたりしている。
歴史的事実を記していっているだけの論文ではあるが、文章自体読みやすく、面白く読めるものになっている。
事実を記すといっても、不明な点や推測に頼らざるをえない点などが多く、それを詳らかにしつつも、要点が明確だからだろう。
また、本論文は、「東映動画史の相対化」を目的としているとある(「東映動画史観の相対化」かと思う)。アニメーション史に疎い自分にとって、そもそも東映動画史とは、という感じだったのだが、戦前や戦後すぐの1940年代に、個人会社としてのアニメーション制作会社が複数あって、アニメーション制作が行われていた、ということ自体、全然知らなかったので、面白かった。